2008年 10月 08日
某全国紙の朝刊に掲載された金美齢さん(評論家)のコラムが目に止まったので少し紹介したい。 内容は新内閣の閣僚18人中の11人が世襲議員で締められたことに端を発した『恵まれた者の使命』と題されたものである。 氏は、映画『炎のランナー(英国:1981)』を引き合いに高位に伴う者の義務について述べている。 波打ち際を若者達がスローモーションで駆けるシーンに始まりそのシーンで終わるこの物語はそのバックに流れる音楽と共に記憶している方も多いと思う。 かつて私も観ているのだが、この波打ち際のシーンと音楽だけが印象に残り氏がコラムで述べている様な深い内容は読み取れていなかった。 実話を元に制作されたこの映画は1924年のパリ・オリンピックの陸上競技でメダルを獲得した3人の英国人青年を描いたものである。 中心的に描かれているのは、裕福だがユダヤ系が故にアングロ・サクソン中心の英国階級社会の中で苦悩しその反骨からメダルを取ることで民族の誇りとアイディンティを見出そうとするケンブリッジの学生ハロルド、 二人目は宣教師の息子として生まれ聖職者として神の道を説き俊足は神からの授かり物として神の栄光を体現すべく走るエリック、そしてハロルドの学友で貴族のアンドリューである。 三人はそれぞれの思いを胸に晴れて英国のオリンピック代表に選ばれる。 問題はオリンピック出場の為、ドーバーを渡る船の出港間際に明らかになる。 宣教師を目ざすエリックは出場する100mの予選が日曜日(安息日)となることを知らさせるのだ。 エリックは欠場を決意する。英国皇太子まで翻意を迫るが決意は変わらない。 そのことを知った貴族のアンドリューは自分が出場予定であった400mの権利をエリックに譲る。 彼はすでにハードルでメダルを獲っていたこともあったが自分の栄光よりも貴族として(高位にある者として)の自分の役割は、よりメダルに近いエリックにその権利を譲り英国に一つでも多くの金メダルをもたらすことだと考えたのだ。 そしてエリックはその期待に応えて見事に金メダルを獲得する。 我が国の二世議員達が同様に高位にある者かは異論もあろうが世襲ではない議員よりもスタートラインをだいぶ前にして貰って得られた地位であることに異論はなかろう。その意味で彼等は生まれながらにして恵まれた者であることは間違いない。 国政に携わる者はある程度実社会の経験を積んでから立候補して欲しいとは思うが私は二世議員を頭から否定はしない。高い志を持ち国家・国民の為に尽くす決意のある者ならば親が築いた土台からスタートしても一向に構わないと思う。 真価はその恵まれた立場を以って何を成しえるかにある。 氏のコラムは、国への献身こそが恵まれた者に与えられた使命であると締め括っている。それが世襲への謗りを免れる唯一の道に他ならないと。 まったく同感である。 蛇足であるが、麻生首相の若かりし頃の逸話がある。 クレー射撃の選手として遠征したアメリカのホテルで食事をしている時、仲間の一人が皿を落としてしまった。 拾おうとした彼を麻生青年は強く制止しウエイターを呼び後始末をさせた後サンキューと礼を言いチップを渡した。 後に皿を落とした青年は何故あれほどまでにきつく止めたのかと麻生青年に問うた。 すると麻生青年は、『君が皿を拾うとウエイターの仕事を一つ奪うことになる。』 と答えたそうだ。 床に落ちたものを自ら拾わないことはテーブルマナーとして知ってはいても自らの不始末に人の手を煩わせることを潔し良しとせずつい手を出してしまう日本人の美徳や感性とは明らかに違う価値観である。 歴代首相の中でも偉才を放った祖父と実業家で国会議員でもあった父を仰ぎ正に華麗なる一族の後継者として生を受け、人の上に立つことを必然として育てられてきたことが垣間見えるエピソードである。 国家の最高位に立った今、麻生首相の”Noblesse oblige”大きく試されている。 <あとがき> 金美齢氏が印象的だったとして紹介しているシーンを観たくてDVDを借りた。 午後の紅茶を終え客を見送った後、広大な屋敷の芝生の上でアンドリューが一人練習するシーンである。 ずらりとセットされた全てのハードルの端になみなみと注がせたシャンパングラスを置き華麗に跳び越えて行く。 こぼさないで跳ぶことで速さだけではなく美しく跳ぶことが彼なりの美学であったのだろう。 やはり庶民とはかけ離れたノーブルな世界である。 ■ 本記事は他サイトに投稿したものを加筆し再エントリーしたものです。
by ippoippoiku
| 2008-10-08 00:45
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