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一歩の写真散歩

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2007年 10月 01日

シェエラザード

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-出版:講談社-

-客船ファンの方にもお薦めです-

気持ちにゆとりがないと長編小説にはなかなか手がでないものである。

久さ方ぶりに手にしたのが浅田次郎さんのこの本。

世の中がどんなに変わろうとも”忘れてはならないことがある”

そんなメッセージが込められている様に思われた。

実際にあった悲惨な事件を下敷きに推理小説という形で私達にそんな

ことを想起させてくれる秀作である。


下敷きになった事件とは、第二次大戦末期に連合国の要請で捕虜や

民間人の救援物資の輸送に当たっていた民間からの徴用船”阿波丸”が

台湾海峡で2044名(大半が民間人で生存者は僅かに1名)と共に撃沈された事件である。

誤爆ということになっているが真相は闇の中である。

タイタニックよりも多くの犠牲者の出た史上最大の海難事故?にも関わらず

戦時中だった為か、はたまた何か見えない力が働いたせいかその後語られる

こともなく闇に葬られたミステリアスな出来事であった。


史実の羅列の狭間に埋もれていった人々を描くことで戦争がリアリティを持って

理解できる様に思う。歴史に学ぶとは史実の暗記ではなくまさにこういう本を読む

ことではなかろうかとさえ思えた。


我が国の未来を大きく決定づけたあの戦争は未だ清算されていない。

読み終わった今、繁栄の中に生きる私達は忘れてはならないことを余りにも

忘れ去り、あるいは正しく知らされずにきたが故に対外的にも国内的にも今日の

身動きがとれない閉塞事態に陥ったのではなかろうかと思えてならない。


タイトルの”シェエラザード”はご存知の方も多いと思うがアラビアン・ナイト

の千夜一夜物語に出てくる賢い王妃の名前である。

リムスキー・コルサコフの交響曲としても知られている様ですね。

この曲がどうしてタイトルとなったかはここでは明かさないことにしましょう。^^

船を引き上げようとする現在と当時を交互に重層的に描くことで未だ厳然と横たわる

未解決の問題を突きつけながらミステリーとロマンスの要素も盛り込み読者を

飽きさせない秀作である。

興味を覚えた方は是非御一読下さい。


by ippoippoiku | 2007-10-01 23:52 | books | Comments(0)
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